脳腫瘍について

 軽い自覚症状や頭を怪我した時の病院での画像検査や脳ドックで「脳腫瘍」と診断されると、誰でも動揺してしまう事でしょう。大切な脳に腫瘍があると知った後は、自分はどうすればよいのか? 人生が終わってしまうのか? 仕事ができなくなるのでは? ・・・・、多くの患者さんが色々な多くの不安をもたれてが依頼に相談に来られます。脳腫瘍について解説します。

脳腫瘍は、150種類の様々な種類があります。脳(脳実質)から発生する腫瘍と脳の外側(脳実質外)に発生する腫瘍に大きく2つに分けられます。脳実質より発生する中枢神経や細胞由来の腫瘍を神経上皮性腫瘍と言います。代表的な疾患は、神経膠腫(しんけいこうしゅ)です。脳実質の外側に発生する腫瘍の代表的な疾患は髄膜腫があります。まずは、脳腫瘍を広く理解する事から始めましょう。


1.脳腫瘍とは?

脳腫瘍の画像と定義

定義

 

脳腫瘍とは、頭蓋内に発生するあらゆる新生物(細胞が異常ぬ分裂をした塊)を言います。さらに細かく説明をすると、頭蓋内を構成している組織より発生する腫瘍を言います。これを原発性脳腫瘍と言い、多臓器の悪性新生物(癌)が、頭蓋内に転移したものを転移性脳腫瘍と言います。


2.脳腫瘍別の発生頻度

脳腫瘍の診断と発生頻度

(1)脳腫瘍の年間発生頻度

脳腫瘍は、1年間に人口1万人に対して1人程度で発生し、わずかに女性に多いと報告されています。日本国内では、1年間に12000人位の患者さんが、脳腫瘍と診断されている事になります、

(2)原発性脳腫瘍の腫瘍別発生頻度

神経膠腫(しんけいこうしゅ)が最も多く約28%、次いで髄膜腫が約27%、下垂体腺腫が約18%、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)が、約10%と報告されています。



3.年齢別の発生頻度

(1)小児に好発する脳腫瘍

原発性脳腫瘍の約8%が小児の脳腫瘍として認められます。星細胞腫(神経膠腫)が約19%と最も多く、次いで髄芽腫が約12%、胚腫が約10%、頭蓋咽頭腫が約9%と続きます。10歳くらいだと男児に多いですが、全体ではやや男児に多い傾向にあります。

(2)成人(15歳〜69歳)に好発する脳腫瘍

原発性脳腫瘍では、髄膜腫が約31%と最も多く、次いで下垂体腺腫が約24%、神経鞘腫が約14%、膠芽腫(神経膠芽腫)が約11%と続きます。転移性脳腫瘍は、成人脳腫瘍全体の約20%を占めています。

(3)高齢者(70歳以上)

原発性脳腫瘍では、髄膜腫が約42%と最も多く、次いで膠芽腫(神経膠芽腫)が約19%、下垂体腺腫が約9%、神経鞘腫が約7%と続きます。転移性脳腫瘍は、高齢者脳腫瘍全体の約29%を占めています。


4.脳腫瘍の分類

1)全体

原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍とに分けられています。

2)中枢神経系(脳)の腫瘍

WHO( World Health Organization;世界保健機関 )の分類が用いられます。人の脳腫瘍の組織分類のために国際的な規則を書面化したものです。正式には、WHOの下部組織であるARC(がん研究機関)が定めた腫瘍分類の規約です。

手術によって摘出された腫瘍を病理医師が、顕微鏡で観察して病変に有無や種類を診断します(病理診断)。病理診断上は、悪性度に応じてグレードをⅠ〜Ⅳまで4つに分類をしています。グレードⅠは良性、グレードⅣは悪性(癌)になります。

 


5.脳腫瘍の主な症状

(1) 頭蓋内圧亢進症状

早朝に強い頭痛(早朝頭痛;Morning. headacheと言います)、嘔吐、うっ血乳頭が、3徴候と言われています。うっ血乳頭は、眼底と視神経の付け根部分(乳頭)に、水分が溜まってしまう事で、初期には一過性の霧視が認められた後に緩徐に視力障害を認めます。

(2) 局所症状(巣症状)

脳腫瘍が発生した部分で、腫瘍の圧迫や血行循環障害などによりその部位の脳に機能障害が発生する症状です。例えば、片麻痺や構語障害(呂律障害)、失語症や失認などがあります。


6.脳腫瘍の画像検査

(1)一般的な検査

レントゲン検査、CT検査、MRI検査が一般的に行われます。何もせずに撮影のみの単純検査と造影剤を注射して行う造影検査があります。脳腫瘍の診断には、一度は必ず造影検査を行います。MRI検査には、脳動脈を撮影するMRAと脳静脈を撮影するMRVがあります。また、脳の代謝情報を提供してくれるMRSという撮影法もあります。

(2)追加で行う事がある検査

疾患によっては、さらに診断を正確にするために、脳SPECT検査(単一フォトン断層撮影)やPET(ポジトロン断層撮影)を行う場合があります。撮影法の選択や画像検査の選択は、施設や担当医師によっても異なる場合があります。


7.脳腫瘍の治療

手術による摘出が原則となります。

1)外科的摘出(手術)

摘出(全摘出/亜全摘出/部分摘出など)

2)放射線治療

(ⅰ)標準的放射線治療

(ⅱ)定位放射線治療;多方向よりビーム状の放射線を病変部に重なるように照射する。重なりの少ない病変周囲の脳組織に照射される放射線量を最小限とする一方で、目標となる病変部には正確に放射線を集中させて高線量を照射させる。この事により治療効果を高める治療。γナイフ(ガンマナイフ)・サイバーナイフ・ノバリス・リニアック・トモセラピーなどの定位放射線治療機器がある。

(ⅲ)粒子線治療(陽子線治療・重粒子線治療);定位放射線治療に比べて、より病変部に合わせて放射線を紗々できる利点がある。病変部のみに放射線をより強く照射できる。

3)化学療法

腫瘍細胞の分裂する時期のみ作用する、選択的に効果のある薬剤と分裂時期に区別なく作用する薬剤の2つに大別される。脳腫瘍の場合には、血液脳関門(必須なものだけを選択的に血液中から脳細胞へ移動させる機構)を通過できる薬剤の方が有効とされる。腫瘍中心部は、血液脳関門が破壊されているが、周囲の脳への境界・浸潤域では血液脳関門が保たれているため。悪性脳腫瘍の場合には、手術あるいは放射線治療と併用することで化学療法の効果が上がる。


8.脳腫瘍を疑ったら

1)外来受診と検査

脳腫瘍と診断された後の対応について

まずは、脳腫瘍の治療を多く行なっている脳外科医の外来を受診しましょう。そして、どの様な腫瘍であるかを「画像診断」をしてもらう必要があります。画像検査は、画像により病変の有無や広がり、性質を調べる検査です。 頭部の基本的な画像検査には、CT検査とMRI検査があります。さらに、必要な場合には造影剤を用いて画像検査を行います。脳腫瘍と診断されたら、その診断を受けた画像が必要になります(CD-R やプリントされた画像)。画像検査の種類や撮影方法によっては、脳腫瘍が存在するけれども、どのような腫瘍であるかを「画像で診断」する事が難しい場合があります。その際は、受診した施設で新たに画像検査を行い、どの様な腫瘍であるかの「画像診断」をする事になります。多くは、造影剤を用いた検査が必要になります。


2)脳腫瘍の種類(良性と悪性)

脳腫瘍は良性、悪性も含め細かく分類すると、かなりの種類があります(約150種類ほどあります)。治療する前の「画像診断」は、手術で摘出した腫瘍より病名が確定した患者さん達の術前画像の所見と照らし合わせて行います。良性と悪性までしか診断できない場合もあれば、病名まで診断できる場合があります。


9.脳腫瘍での治療の必要性

(1) 自覚症状や明らかな症状がある場合

脳腫瘍の治療をするか?まずは、このように考えましょう。

体に何らの症状が認められていたり、脳腫瘍に起因する自覚症状があれば手術による治療の適応になります。脳腫瘍とそれらの関わりがあるのか?は、受診した脳外科医に確認する必要があります。つまり、手術によりその症状や自覚症状が改善する可能性があるかのか?と言う事になります。

(2) 明らかな症状や自覚症状がない場合

自覚症状のない脳腫瘍は、こう考えましょう。

自覚症状もないのに、脳腫瘍と診断された場合には「画像診断」で受けた病名や腫瘍の場所、大きさにより選択肢が生じます。

① 治療はせず、定期的な検査を受け腫瘍の変化をみる。

② 治療を受ける(予定をたてる)。

③ 経過をみて自分の都合の良い時期に治療をうける。

(3)疾患の情報を整理する

自分の体にできてしまった脳腫瘍をどのように対処したらよいのか? 多くの方が、悩んだり不安になったり、自分の健康に自信を無くしてしまいうつ病になる方もいます。大切な事は、自分の病気をよく理解する事になります。外来で説明をする医師の画像診断や治療についての意見や私見が主となれば、病気を理解したり自分の選択肢を決められない事となります。



(4)脳腫瘍での治療について、基本的な考え方

脳腫瘍の治療の主たる柱は、手術により摘出となります。他には、放射線治療(サイバーナイフ、ガンマナイフ、IMRT、リニアック、陽子線)や化学療法があります。手術のみで治療を終了させる事もありますし、追加治療として放射線治療や化学療法を組み合わせる場合もあります。脳腫瘍の種類や治療法の長所と短所を考慮して合併症なく効果的に治療を考慮する事はとても肝要です。

 


10.脳腫瘍での手術

腫瘍の場所や大きさ、次第に大きくなったことなどにより脳が圧迫され症状が認められている場合には、治療が必要となります。ほとんどの場合、摘出による確定診断と症状改善のための手術が必要となります。

担当医からの説明を十分にうける

精密機器による放射線治療や薬の配合や組み合わせによる化学療法より、外科手術は執刀医の技術や知識、経験が必要となるます。また、それらによって育った微妙な違いにも気付く感覚(センス)により合併症を避けたり、摘出の限界やリスクの評価が行えるとも言えます。技術の習得にノウハウやコツがあっても、この微妙な違いにも気付く感覚(センス)は、簡単には身につかないと考えています。患者さんへの疾患や治療の説明にも違いがあると思いますが、大切な事はよく話を聞くことに尽きるでしょう。  


脳外科疾患で手術をする疾患

ホームページ内で詳しく説明をしています。