顔面痙攣

(がんめんけいれん)

40歳〜70歳代に好発します。男性に比べて女性に多く、30歳以下では極めて稀な疾患です。痙攣は、片側に認められ、両側同時に認められる事はまずありません。片方の症状が出現してから1年以上の経過でもう片方に認められる場合もありますが、かなり稀です(1%以下)。

 


顔がピクピク痙攣(けいれん)する?

 片方の顔面が勝手に痙攣してしまう場合、片側性顔面痙攣が疑われます。


1. 片側性顔面痙攣(けいれん) とは?

1)ごく簡単に説明をすると

顔が痙攣する顔面痙攣(けいれん)の多い症状と経過について説明

2)片側性顔面痙攣の定義

定義は、医学用語を用いますので少々難しいと思います。一側の顔面の筋肉(表情筋)の発作性、反復性の不随意収縮を言う。下眼瞼が、小刻みにピクピクする不規則な間欠性痙攣で始まり、上眼瞼や頬部や口角へ拡がるものを片側性顔面痙攣と言う。

3)片側性顔面痙攣の頻度

年間に人口100万人に8人位に発生し、やや女性に多い傾向にあります。

4)片側性顔面痙攣の特徴

左に多い(右の約2倍)。眼輪筋より拡がっていかない場合があり、口輪筋や頬筋から拡がる場合が少なからずある(約8%)。前頭筋(おでこ)や口輪筋、頬筋が始まる顔面痙攣は、通常と異なる動脈の顔面神経への圧迫がある事が多いと報告されています。自然消失する事はありません。

5)一般に多い片側性顔面痙攣の症状の経過

顔が痙攣する顔面痙攣(けいれん)の症状についてわかりやすく説明

時間と共に痙攣の部位が、広がります。前額部(おでこ)に認められる事はかなり稀です。睡眠中にも顔面の痙攣は出現します。ほぼ前例に異常連合運動が認められます。

① 異常連合運動(abnormal synkinesis)

眼輪筋の随意運動で口輪筋に、口輪筋の運動で眼輪筋の運動が認められます(まばたきをすると口のまわりがピクピクと勝手に動く、口の周りをもぐもぐ動かすと眼の周りがピクピク勝手に動く)。20%前後で、アブミ骨筋の異常連合運動が認められます(顔に筋肉を動かすと、鼓膜を支えているアブミ骨の筋肉がピクピクと勝手に痙攣をして、痙攣をしている側の耳に低音の雑音がする)。

② 片側顔面の筋緊張亢進

精神的に緊張すると痙攣は、出現しやすくなります。その頃になると片側顔面の筋肉がこわばるような筋肉の緊張亢進により、眼が開きにくくなったり、対人業務や自転車・自動車の運転などの日常に支障をきたす様になります。経過が長くなると(痙攣発症から長期間)、時に顔面神経麻痺による顔面運動機能障害が出現します。

顔面痙攣(けいれん)の顔面筋緊張亢進のわかりやすい症状の画像

6)片側性顔面痙攣の原因

顔が痙攣する顔面痙攣(けいれん)の原因についてわかりやすく説明

痙攣は、脳から顔面神経がでる部位(神経根部)に動脈が接触・圧迫する事による刺激で生じます。動脈以外の原因は、極めて少ないです。

 


2.片側性顔面痙攣の動画

顔が痙攣する顔面痙攣(けいれん)の写真(女性)

(左) 顔面痙攣


顔が痙攣する顔面痙攣(けいれん)の写真(男性)

(右) 顔面痙攣



3.片側性顔面痙攣の診断

 

 

 『片側性顔面痙攣』が、あれば治療経験が豊富な脳外科医、もしくは神経内科の診察とMRI検査での診断が可能です。顔が無意識にピクピク収縮するような症状が数日から数週間で治らずに持続するような場合は、『片側性顔面痙攣』の可能性があります。専門医の診察をお勧めします。

1)発症と経過

ほとんどの片側性顔面痙攣は、発症からの経過が類似しています。過去に顔面神経に関わる問題や疾患や障害の有無、痙攣出現時の状態や再現性などを外来診察時にお聞きします。日常生活の支障度や痙攣の変化の評価を行います。

2)画像検査

一般的な頭部MRI検査に加え、顔面神経の走行を確認するための撮影を追加して行います。顔面神経の走行と形態学的な異常を来たすような原因があるのか?腫瘍の有無なども含め評価していきます。

3)筋電図

細い電極針を顔面の筋肉に刺して検査をします。痙攣が認められている顔面神経支配の筋肉間での異常な共同運動を評価したり、痙攣による筋肉からの異常な高値を示す筋放電を確認します。また、刺激を加えてから顔面神経から筋肉への反射(伝導路)の異常を評価する誘発筋電図のあります。現在は、筋電図を用いることなく診断できるため一般的には術前には行いません。手術時には、全身麻酔により痛みを感じませんのでAMR(Abnormal muscle response)を行います。

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4. 片側性顔面痙攣の治療

1)最も効果的な治療は、手術による微小血管減圧術(MVD)/移動術(MVT)

 Microvascular transposition: MVT (またはMicrovascular decompression: MVD)という手術手技を用います。手術により顔面神経を圧迫している血管を神経から離し、移動・固定する事により、神経の圧迫を解除して痙攣(けいれん)の原因を取り除くという 手術方法 です。手術治療は原因を取り除く根本的な治療 (永久的な治療)になるので、最も効果的な治療です。これは 三叉神経痛 や 舌咽神経痛 と同じく、神経を圧迫している血管と移動固定する治療法です。私は「 鍵穴 手術 」を行っています。皮膚切開が小さく髪の毛を全く切りませんので治療後は、周囲の人が気づく事はありません。痛みも通常の切開によるものより軽度です

血管を丁寧に剥がさずに血管と神経の間に物(クッション)を挟む方法 (Interposition)を行う施設や医師がおります。術後の経過で神経周囲が癒着をしてしまい、再発の原因となることがあります。また再手術が必要になった場合には、癒着が強く神経損傷による感覚障害のリスクが増してしまいます。よって血管と神経の間に物(クッション)を挟まない事がとても重要です。我々の方法は、一貫して神経を圧迫している血管を移動させる重要性を主張しています(圧迫血管を移動させる Transposition法です)。血管の固定にはテフロンという素材を使い血管を包む細いタオルのような物を作り、血管を巻いてテフロンを他の部分に付けるフィブリンのりという特殊なのりを使って血管を神経から離して固定する、という方法を行っております。これは、私の師である 福島孝徳 先生(DUKE大学)が、この30年の手術経験の元で確立した非常に侵襲の少なく、有効かつ安全な手術方法です。

2)片側性顔面痙攣の手術;鍵穴手術

無剃毛手術のため(髪の毛は、切らずに剃る事もしません)手術後の傷が目立つ事はありません。頭蓋骨に直径2cm程度の穴を空けて、頭蓋骨内側と脳の間の隙間から、顔面神経が脳から出て、頭蓋骨と通り抜ける部位(内耳道)までの走行を確認します。手術は、1時間30分程度です。切開は、通常よりもかなり小さいので痛みも少なく、傷も目立ちません。


  顔面痙攣(けいれん)の創部(切開部)/鍵穴手術

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3)内服による治療

 

カルバマゼピン(商品名テグレトール)という主にてんかんの治療薬での内服で効果があります。他にもクロナゼパム(商品名リボトリール)、バクロフェン(商品名ギャバロン,リオレサール)、ガパペチン(商品名ガバペン)などが痛みが完全に消失できなくでも緩和させる事が可能です(痛みが軽度~中等度の場合)。しかし、薬の副作用(肝機能障害・めまい・ふらつき、重症になると全身の臓器の機能が悪くなるStevens-Johnson 症候群があります)、痛みの増悪に伴う薬の増量に限界が生じた場合は、内服治療の継続はできません。基本的には、患者さんが、満足できる効果はありません。

4)注射による治療(ボトックス注射)

ボトックス注射(Botulinum toxin type A)

 

ボツリヌス菌という細菌が作り出すボツリヌストキシンという毒素 ( タンパク質 ) は、「筋肉を動かせ」という神経からの指令を筋肉に伝える部位 ( 神経筋接合部 ) をブロックする事で、筋肉の運動を低下させる作用を持っています神経毒素の一つです ) 。この作用を利用して、この毒素を筋肉の緊張が強い部位に注射をする事で筋肉の緊張を和らげる事ができます。細菌そのものを注射するのではなく、精製されたボツリヌストキシン商品名ボトックス ) を注射します。(ボツリヌス毒素療法の資格を持つ医師が、患者登録を行い、その後に薬剤を調達して使用する事になっています)

顔面痙攣(けいれん)に対するボトックス注射

注射は、痙攣の認められる眼の周囲や頬、唇付近に計数ヵ所から十数ヵ所に行います。

注射の効果】注射後2日から5日 1-2週間で作用が安定します。

効果の持続】約2ヶ月から4ヶ月

局所の注射なので、体内に毒素がまわる危険性は低いですが、注射をした顔面に注射針による皮下出血や腫れ(はれ)が数日から1−2週間認められる事があります。薬の効果が予想していたよりも強くなってしまった場合、その部位は筋肉の動きが低下していまいますので、麻痺した状態になる事がありますが、薬の効果が弱まると共に筋力は回復します。


5.片側性顔面痙攣の手術による治療効果

最近の手術による痙攣 (けいれん)の消失率は 99%以上です。現在、術後の経過を見ている方は1人のみです。術前の画像診断や症状の経過より、確実に 手術 で治療できる患者さんの診断をしているからと考えています。 手術 による症状改善やその過程には、いくつかのパターンがあります。多くは術直後から 痙攣 (けいれん)が軽減、消失します。徐々に痙攣(けいれん)が治まって行きながら、 消失に1週間かかることもあります。稀に手術所見よりそれ以上かかる場合、もしくは予想される場合もあります。学問的には、機序は解明されていませんが、症状が取れるまで長期間(2-3)かかる事も報告されています。私の経験では、最長で1年半の患者さんがいらっしゃいます。他施設で手術を行った患者さんが、症状改善が乏しいために相談に来られる事があります。経過を見る様に説明された中には、手術が不十分であったために再手術をして治療した経験も少なくありません。通常、入院期間は術後 1週間程度です。術後の経過を自宅で見たいと希望される場合は、患者さんの体調にもよりますが、術後3日程度で退院可能です。


6.片側性顔面痙攣の手術;合併症や安全性について

安全な手術を行うには、術者の眼と知識、経験のよる判断が不可欠です。特に顔面神経だけではなく周囲の構造物、他の脳神経(特に聴神経や迷走神経)や小血管に対するへの注意と繊細な手術操作が求められます。私自身は、微小血管減圧術の手術(病院施設の症例数ではなく、個人執刀症例数)は、500例以上を経験しており、良好な結果を得ています。大学病院の中には、年間の施設症例数が10例も満たない施設もありますので、脳外科医個人としての経験数としては、かなりの数になります(後日に詳細を追加します)熟練した世界的脳外科医である 福島孝徳 先生より解剖も含め臨床の場で最初にご教授頂いた手術法です。手術は、技術だけではなくお教え頂く師匠の知識や経験を取り入れながら、自分の知識や経験、知恵とする事が手術を主とする脳外科医には、とても重要だと実感した手術の一つです。

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