髄膜腫

(ずいまくしゅ)


1).  髄膜腫とは?


 

『髄膜』とは、脳および脊髄を保護するために脳や脊髄を包んでいる膜(軟膜、くも膜、硬膜)の総称です。この髄膜と呼ばれる膜の細胞からできる腫瘍を髄膜腫といいます。脳は頭蓋骨の中にありますので、髄膜腫が徐々に大きくなると、頭蓋骨の中で大きくなるため、腫瘍近辺にある脳を圧迫するようになります。原発性脳腫瘍の代表的な腫瘍で、脳腫瘍全体の約27%を占めています。

 

中高年者に発生しやすく、女性(特に中年女性)に多く認められます。ほとんどは良性です。通常は、一つ(単発)ですが、いくつもできている事もあります(多発性;1-3%)。


2).  髄膜腫の診断


髄膜腫は、CT検査もしくはMRI検査にて診断されます。CT検査では、腫瘍が小さい髄膜腫の診断が難しいため、MRI検査が診断にて適した検査です。腫瘍が疑われた場合は、造影剤を用いた検査を行って、造影剤に染まった腫瘍の部位や造影所見にて髄膜腫の診断がされます。

 

脳を包む膜を髄膜と呼びます脳についた状態で2枚(軟膜・くも膜)、脳についていない状態で脳の外側(=頭蓋骨の内側)に1枚(硬膜)ありますので,頭を輪切りにした画像検査(CT,MRI)では脳と頭蓋骨の間に認められるのが画像での特徴で一般的です。

 

 

 

 

脳を包む膜を髄膜と呼びます脳についた状態で2枚(軟膜・くも膜)、脳についていない状態で脳の外側(=頭蓋骨の内側)に1枚(硬膜)ありますので,頭を輪切りにした画像検査(CT,MRI)では脳と頭蓋骨の間に認められるのが画像での特徴で一般的です。

 

一般的な髄膜腫の術中所見

腫瘍の上にある頭蓋骨の一部を取り除き、硬膜を露出させます。腫瘍周囲の硬膜に切開を加えて腫瘍を確認します。


腫瘍の上にある頭蓋骨の一部を取り除き、硬膜を露出させます。

腫瘍周囲の硬膜に切開を加えて腫瘍の存在を確認します(点線/矢


硬膜と腫瘍の付着部は、血管の発達が良いために止血(電気凝固)しながら腫瘍を露出させます(点線の黒い部分)。

 

この腫瘍は、腫瘍が赤色調で腫瘍内に流れている血液が比較的多いことが予想されます。

しかし、同じ髄膜腫でも腫瘍が黄色〜白色調で腫瘍内の血行が比較的少ない事が予想されるものもあります。青い矢印は、脳表のくも膜と腫瘍の境界部です。⬆️の写真では、くも膜が白濁し正常のくも膜と癒着した連続性のある所見として認められます。➡️の写真では、明らかに正常くも膜と腫瘍の境界がはっきりしています。➡️の写真で青い点線内に光を反射している膜がくも膜です。


頭部MRI検査では、腫瘍は造影剤に染まり白い塊として認められます。よって、腫瘍の場所や大きさを知ることができます。しかし、腫瘍の状態(腫瘍を栄養している血管の発達、腫瘍の硬さの程度)や周囲との関係(脳や血管との癒着の状態や程度)については、精密検査機器のMRIでもわかりません。手術中に知りうる情報になります。

患者さんやご家族が心配される手術によるリスクは、手術中にわかる所見で大きく変わることがあります。腫瘍が周囲構造物(脳や血管、部位によっては脳神経)と癒着していれば、摘出操作による血管損傷で脳出血や脳梗塞、くも膜や軟膜のダメージで脳損傷となる可能性があります。手術は、術者の眼を用いた脳、腫瘍、境界部に対する認識と判断が安全な手術を行うには不可欠です。腫瘍血管が発達している場合は、摘出のたびに腫瘍からの血液が滲み出し(もしくは、流れ出し)、正常な構造物との境界が確認しずらくなる事もリスクになってきます。私自身は、髄膜腫の手術(病院施設の症例数ではなく、個人執刀症例数)は、200例以上を経験しており、良好な結果を得ています。大学病院の中には、施設での年間髄膜腫症例数が10例位の施設もありますので、脳外科医個人の経験数としては、かなりの数になります(後日に詳細を追加します)。手術の進行と同時に術野所見に対する評価や判断、手術戦略とリスク管理のバランスが必要とされる手術の中では、特に留意すべき腫瘍の一つであると私は考えています。熟練した世界的脳外科医である福島孝徳先生より解剖だけではなく発生部位ごとの手術法のポイントをもご教授も頂き、また多くの症例を一緒にさせて頂いた事が私の脳外科医としての財産であり、技術だけではなく術中の大切な判断に対する頑丈な基盤となっています。


3).  髄膜腫の主な症状


小さい髄膜腫は、ほとんどが無症状です。脳ドックなどで、偶然に髄膜腫を指摘されることもあります。しかし、髄膜腫が徐々に発育をして大きくなると、腫瘍近辺にある脳や脳神経を圧迫し始めます。ある程度の大きさになってくると、発生した部位や伸展方向により異なった様々な症状が出現します。

髄膜腫が大きくなることで、頭蓋骨中の圧が高くなり、頭痛、嘔吐、次第に視力障害や意識障害に進展する場合もあります。また、脳が腫瘍に直接圧迫されると、脳神経症状、片麻痺、歩行障害、てんかん発作等が認められます。


4).  髄膜腫の分類


【1.  症状 】

                      1) 無症候性;症状 (−)

        2) 症候性;症状 (+)

 

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【2.  発生部位】

 

 ①. 大脳円蓋部:(前頭部、頭頂部、側頭部、後頭部、シルビウス裂)

 ②.大脳鎌: (前1/3、中1/3、後1/3)

 ③.傍矢状洞:(前1/3、中1/3、後1/3)

 ④.蝶形骨縁:(内側1/3、外側1/3、鞍内)

 ⑤.テント

 ⑥.傍鞍部: (鞍結節、蝶形骨洞平面、鞍内)

 ⑦.小脳橋角部

 ⑧.嗅溝

 ⑨.中頭蓋窩

 ⑩.小脳円蓋部

 ⑪.斜台

 ⑫.脳室: (側脳室、第三脳室、第四脳室)

 ⑬.大孔    

 

 

        ※ 発生頻度:円蓋部>大脳鎌>傍矢状洞>蝶形骨縁>テント

 

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 【3.  組織型】  

摘出した病変の診断や病気の原因の究明のために、顕微鏡等を用いて詳しい診断を行います(病理検査/診断)。髄膜腫は細胞の形状や組織の構築がさまざまであるために、形態学的な特徴から15種類のサブタイプ(組織亜型)に分けられています。


また、再発や脳への浸潤、破壊性や増殖能力の程度などの観点から、WHO(世界保健機関)にて悪性度の分類(グレード分類)がされています。グレードIが良性、グレードIIが中間悪性、グレードIIIが悪性、グレードIVが悪性(高)ので4段階に分類されています。髄膜腫では、グレードI~IIIが存在しており分類されています。

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 【 グレード I  】

 

 ①髄膜皮性髄膜腫Meningothelial meningioma

 ②線維性髄膜腫Fibrous meningioma

 ③移行性髄膜腫Transitional meningioma

 ④砂粒腫性髄膜腫Psammomatous meningioma

 ⑤血管腫性髄膜腫Angiomatous meningioma

 ⑥微小嚢胞性髄膜腫Microcystic meningioma

 ⑦分泌性髄膜腫Secretory meningioma

 ⑧リンパ球・形質細胞に富む髄膜腫Lymphoplasmacyte-rich meningioma

   ⑨化生性髄膜腫Metaplastic meningioma

 

  グレード II 】

 

⑩異型性髄膜腫Atypical meningioma

⑪明細胞髄膜腫Clear cell meningioma

   ⑫索腫様髄膜腫Chordoid meningioma

 

 グレード III 】

 

⑬ブドイド髄膜腫Rhabdoid meningioma

⑭乳頭状髄膜腫Papillary meningioma

⑮退形成性(悪性)髄膜腫Anaplastic (malignant) meningioma

 


5).  髄膜腫の主な原因


原因は未だにはっきりしていませんが、遺伝子の異常と関係していると多くの研究で示されてきています(染色体第22番長腕22p)。


6).  再発について


 

腫瘍の全摘出をしても、長期経過観察で再発する(腫瘍が再出現する)場合があります。初回発生した部位付近に再発する事が多いです。また、全摘出できずに残存した腫瘍が、経過で再増大する(少しずつ大きくなる)場合があります。これらを、一緒に「再発」と表現されているように思われます。

 

再発は、① 全摘出できなかった症例 ② 若年者(<40歳)③ 摘出した腫瘍の検査(病理検査)での腫瘍細胞の核分裂像(MiB-Ⅰ:>3~4%)、などが再発のファクターになります。全適出されても、脳への腫瘍浸潤や細胞密度が高い例は、再発の報告例もありますので長期観察が必要になります。

非定型髄膜腫(グレードⅡ)や過形成性髄膜腫(グレードⅢ)は、臨床的には増殖が速く、摘出後短期間に再発する傾向があります。過形成性髄膜腫(グレードⅢ)は、遠隔転移する事も稀ですが、認められます。

 

再発については、手術所見・術中処置、摘出率、病理検査結果(細胞密度やグレード)より執刀医より説明を受けて下さい。また、必ず定期的な画像検査は必要です。


7).  治療


髄膜腫の主な治療方法は、外科的手術(腫瘍摘出術)です。基本的には、外科的な腫瘍摘出を勧めています(組織診断も行えます)。摘出難度や合併症のリスクは、発生した部位や大きさ、脳への浸潤等によって異なります。治療が必要と決めるのは、手術適応(症状の有無や腫瘍の大きさの経時的変化の有無など)や自分の希望や心配する事などを脳腫瘍の治療経験の多い脳外科医に相談してからでも遅くはありません。


治療症例

    - 41歳女性、脳ドックにて発見された約6.5cmの巨大脳腫瘍(髄膜腫)-

               術前

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小学校生の長男のため、合併症を絶対をださない治療を希望され当院受診。脳血管撮影検査、血管内手術による腫瘍血管(↑↑)の塞栓術を施行。摘出に伴う出血のコントロール(輸血を必要としない)を行い、腫瘍は全摘出。術後7日目に合併症なく退院。

               術後

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     - 62歳女性、右眼がほぼ失明した状態で来院された髄膜腫()  -

    術前

 

 

白内障の既往があり、診断が遅れた症例。

大学病院では手術での視力回復は不可能と説明をうける。孫世話もあり、わずかな視力回復の希望を持たれ当院紹介来院。

     術後


直ちに手術(術中視覚への刺激モニターとナビゲーションシステムを使用)。全摘出にて術後7日目に合併症なく退院。視力は術後経過で完全に回復。