顔面痙攣

(がんめんけいれん)


1).  顔面痙攣(けいれん)とは?


頭蓋骨内にある左右どちらかの脳から出た顔面神経の神経根部に問題が生じると、自分の意志とは関係なく、その左右の問題ある方の顔面が勝手に「痙攣(けいれん)」が出現するようになります。痙攣(けいれん)は、顔面の片側に認められるため「片側性顔面痙攣」といいます(両側に認められる事はまずありません)。眼の周りのピクピクする症状から始まり、頬、額、口、顎へと症状が広がります。さらに、顔の筋緊張が強くなるために瞼(まぶた)が常に開けにくい状態となり、仕事や車の運転などの生活に支障を来します。

【 顔面神経の走行 】

 

 

顔面神経は、脳から左右それぞれの顔面を動かす筋肉へ運動の指令を直接伝える神経です。脳から左右1本ずつ出て頭蓋骨のトンネルと抜けて顔面へ走行します。

 

 

 

 

脳から左右1本ずつ出る➡︎頭蓋骨のトンネルを走行➡︎耳の下から出てきて、顔面を走行(緑矢印)その後に細かく枝分かれをして(赤矢印)、顔面にある幾つかの顔面を動かす筋肉に脳からの指令を伝えます。


2).  顔面痙攣(けいれん)の主な原因と症状

問題となる場所は、脳から顔面神経(点線)が出た部位神経根部()です。拍動する血管(動脈)が顔面神経根部()を圧迫する事が主な原因になります。稀に脳腫瘍が顔面神経を圧迫する事により痙攣(けいれん)を誘発させていることもあります。脳の表面や頭蓋骨内側に存在するクモ膜や拍動しない血管(静脈)が原因となる事もあります。血管や腫瘍などの圧迫により刺激を受けると顔面の筋緊張が高まり(顔がこわばる、眼が開きにくいなどの症状)、顔面の痙攣(けいれん)を誘発させるようになります。

また、脳の表面や頭蓋骨内側に存在するクモ膜による神経への影響により痙攣(けいれん)が認められる事もあります 

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顔面神経の下を走行している神経は聴神経(耳から聞いた音を脳に伝える神経)です。 

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【 片側性顔面痙攣の動画 】

(左) 顔面痙攣


(右) 顔面痙攣



3).  顔面痙攣(けいれん)の診断


 

通常、眼の周囲の筋肉がピクピク収縮する事で発症します(眼輪筋の収縮)。出現、消失の経過で次第に頬から唇まで痙攣が進行していきます。精神的に緊張すると痙攣は、出やすく強くなる傾向にあります。顔がこわばる様な筋緊張亢進を自覚する様になると、眼が開きにくくなり日常に支障(対人業務、自転車・自動車の運転など)をきたします。睡眠時でも痙攣は認められう様になり、経過が長いと場合によっては顔が麻痺する様になる事もあります。

 

眼の周囲が小さく波を打つような動きは、健常者でも認められる事があります。これは、眼性ミオキアと言って眼精疲労や体調の疲れから出てくるもので片側性顔面痙攣とは異なります。また、過去に顔面の筋肉が動きにくくなる様な疾患の既往のある場合は(末梢性顔面神経麻痺、外傷、脳腫瘍などの手術後)、治癒後の経過で二次性の顔面痙攣が出現しますが、血管の圧迫によるものではないため手術では治りません。

 

片側顔面の痙攣(けいれん)が、あれば治療経験が豊富な脳外科医、もしくは神経内科の診察とMRI検査での診断が可能です。顔が無意識にピクピク収縮するような症状が数日から数週間で治らずに持続するような場合は、「片側性顔面痙攣」の可能性があります。専門医の診察をお勧めします。


4).  顔面痙攣(けいれん)の治療


1)最も効果的な治療は手術による、微小血管減圧術 (MVT,MVD)です。

 

Microvascular transposition: MVT (またはMicrovascular decompression: MVD)という方法です。手術により顔面神経を圧迫している血管を神経から離し、移動・固定する事により、神経の圧迫を解除して痙攣(けいれん)の原因を取り除くという手術方法です。手術治療は原因を取り除く根本的な治療

 (永久的な治療)になるので、最も効果的な治療です。これは三叉神経痛や舌咽神経痛と同じく、神経を圧迫している血管と移動固定する治療法です。

2)お薬による治療方法(内服、ボトックス注射)もあります。

 

● 内服薬

カルバマゼピン(商品名テグレトール)という主にてんかんの治療薬での内服で効果があります。他にもクロナゼパム(商品名リボトリール)、バクロフェン(商品名ギャバロン,リオレサール)、ガパペチン(商品名ガバペン)などが痛みが完全に消失できなくでも緩和させる事が可能です(痛みが軽度~中等度の場合)。しかし、薬の副作用(肝機能障害・めまい・ふらつき、重症になると全身の臓器の機能が悪くなるStevens-Johnson 症候群があります)、痛みの増悪に伴う薬の増量に限界が生じた場合は、内服治療の継続はできません

 

 

● ボトックス注射(botulinum toxin type A)

 

ボツリヌス菌という細菌が作り出すボツリヌストキシンという毒素 ( タンパク質 ) は、「筋肉を動かせ」という神経からの指令を筋肉に伝える部位 ( 神経筋接合部 ) をブロックする事で、筋肉の運動を低下させる作用を持っています( 神経毒素の一つです ) 。この作用を利用して、この毒素を筋肉の緊張が強い部位に注射をする事で筋肉の緊張を和らげる事ができます。細菌そのものを注射するのではなく、精製されたボツリヌストキシン( 商品名: ボトックス ) を注射します。(ボツリヌス毒素療法資格医師が患者登録,その後に薬剤調達して使用する事になっています)。

 

注射は、痙攣の認められる眼の周囲や頬、唇付近に計数カ所から十数か所に行います。

 

注射の効果:注射後2日から5日

      約1-2週間で作用が

      安定します。

効果の持続:約2ヶ月から4ヶ月位

 

局所の注射なので、体内に毒素がまわる危険性は低いですが、注射をした顔面に注射針による皮下出血や腫れ(はれ)が数日から1−2週間認められる事があります。薬の効果が予想していたよりも強くなってしまった場合、その部位は筋肉の動きが低下していまいますので、麻痺した状態になる事がありますが、薬の効果が弱まると共に筋力は回復します。


5).  顔面痙攣の手術法(福島式 鍵穴手術)

                                        ☛ 鍵穴手術とは?


皮膚の切開は、耳の後ろ下方(髪の毛のある部位)に約3~4cmの小さな切開のみで行います。

無剃毛手術のため(髪の毛は、切らずに剃る事もしません)手術後傷が目立つ事はありません。頭蓋骨に直径2cm程度の穴を空けて、頭蓋骨内側と脳の間の隙間から、顔面神経が脳から出て、頭蓋骨と通り抜ける部位(内耳道)までの走行を確認します。


そして、顔面神経根部を圧迫している血管を丁寧に剥がし血管が神経に当たらないような場所を移動させて、固定します。手術時間は2時間前後です。

 

この際、血管を丁寧に剥がさずに血管と神経の間に物(クッション)を挟む方法(

 (Interposition法)を行う施設や医師がおります。術後の経過で神経周囲が癒着をしてしまい、再発の原因となることがあります。また再手術が必要になった場合には、癒着が強く神経損傷による感覚障害のリスクが増してしまいます。よって血管と神経の間に物(クッション)を挟まない事がとても重要です。我々の方法は、一貫して神経を圧迫している血管を移動させる重要性を主張しています(圧迫血管を移動させる Transposition法です)。血管の固定にはテフロンという素材を使い血管を包む細いタオルのような物を作り、血管を巻いてテフロンを他の部分に付ける(フィブリンのり)という特殊なのりを使ってのり付けしてきます)という方法を行っております。これは、私の師である福島孝徳先生(DUKE大学)が、この30年の手術経験の元で確立した非常に侵襲の少なく、有効かつ安全な手術方法です。

手術は、術者の眼を用いた症状原因の診断と外科治療に対する判断が安全な手術を行うには不可欠です。特に顔面神経だけではなく周囲の構造物、他の脳神経(特に聴神経や迷走神経)や小血管に対するへの注意と繊細な手術操作が求められます。私自身は、微小血管減圧術の手術(病院施設の症例数ではなく、個人執刀症例数)は、300例以上を経験しており、良好な結果を得ています。大学病院の中には、年間の施設症例数が0〜10例位の施設もありますので、脳外科医個人としての経験数としては、かなりの数になります(後日に詳細を追加します)。熟練した世界的脳外科医である福島孝徳先生より解剖も含め臨床の場で最初にご教授頂いた手術法です。手術は、技術だけではなくお教え頂く師匠の知識や経験を取り入れながら、自分の知識や経験、知恵とする事が手術を主とする脳外科医には、とても重要だと実感した手術の一つです。


6).  術後


最近の手術による痙攣(けいれん)の消失率は 約99%です。術後の経過をみている患者さん(1年以内)以外は、消失しています。術前の画像診断や症状の経過より、確実に手術で治療できる患者さんの診断をしているからと考えています。多くは術直後から痙攣(けいれん)が軽減、消失します。徐々に痙攣(けいれん)が治まって行きながら、 消失に1〜2 週間かかることもあります。稀に手術所見よりそれ以上かかる場合、もしくは予想される場合もあります。通常、入院期間は術後 1週間です。再発は、数例の患者さまに認められたため、再手術を行い顔面神経の状態と周囲の状態を確認しています。通常ではない変化や原因として考えられない構造物との関係など、例外とも言えるものでしたが、術後に痙攣(けいれん)は消失しています。