(のうどうみゃくりゅう)
脳動脈の一部分が膨らみ、その血管壁が弱くなり嚢状もしくは紡錘状に拡大して瘤(こぶ)のようになったものを脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)と呼んでいます。瘤(こぶ)の壁が弱くなったり、大きくなることで破裂をするとくも膜下出血になります。破裂していない状態での脳動脈瘤は正確には、未破裂脳動脈瘤と言われています。また、動脈瘤が破裂をしないでかなりの大きさまで増大すると症状を認める場合があります。症状が認められていない動脈瘤は無症候性動脈瘤と言います。統計では、成人の2~5%(100人に対して2~5人)の人に認められるとされています。くも膜下出血になると、3人中2人は死亡もしくは日常や仕事に支障のある後遺症を認めます。医療が進歩している現代でも、重い後遺症を治すことはできません。
破裂後の状態(軽症なのか重症になるのか?)を前もって予測することはできません。脳動脈瘤の大きさや場所、血管壁の状態、瘤(こぶ)にかかる負担など、かなり個人差があるため明確に破裂する可能性を個々の患者さんに示すことはできません。しかし、破裂に関わる傾向を探り当てていくために国や広い地域で統計がとられています。日本での脳神経外科学会が行った未破裂脳動脈瘤の全例調査(UCAS Japan)の結果では、年間出血率は0.64%/年と報告されています。未破裂脳動脈瘤を持った人の中で、くも膜下出血を起こす人は1000人中6.4人/年、瘤(こぶ)の大きさでは5mm以上の人に限定すると、100人中1.1人/年と報告されています。よって、脳動脈瘤が発見されてからの治療の緊急性は高くはないと言えますが、破裂の予測ができない事が不安の原因となるケースが多いと感じます(どのように考えたらよいかは下をお読み下さい)。
高血圧や喫煙、遺伝などが関連していると考えられていますが、動脈瘤の
発生理由や原因は明らかにされていません。高血圧管理や禁煙はとても大切です。
【形】 ① 嚢状 ② 紡錘状
【大きさ】 ① 小動脈瘤 (≦12㎜)
② 大動脈瘤 (13-24㎜)
③ 巨大動脈瘤(≧25㎜)
【原因】 ① 先天性
② 動脈硬化性
③ 細菌性
④ 真菌性
⑤ 腫瘍性
⑥ 外傷性
【病理】 ① 真性
② 仮性
③ 解離性
脳動脈瘤のほとんどが先天的で、動脈の中膜筋層が欠損している事により動脈壁の3層もしくは1層が拡張したもの(真性)で、嚢状の形態を示す嚢状動脈瘤になります(全体の60%以上を占めます)。75%以上は10mm未満の大きさです。
【好発部位】
① 中大脳動脈 (≒20%)
② 内頚動脈 (≒30%)
③ 前交通/大脳動脈 (≒40%)
④ 椎骨・脳底動脈 (≒10%)
( ③ > ② > ① > ④ の順に多い)
【※ 多発する場合があります】
2個以上の動脈瘤がある場合を、
「多発性脳動脈瘤」といいます。
2個の場合が多く(70%)、女性に多いと報告されています(男性の約5倍)。動脈瘤が、6-7㎜以上の大きさがあると、破裂(クモ膜下出血)のリスクになります。
脳動脈瘤は、ほとんどが破裂して発症(クモ膜下出血)する事が多く(90-95%)、破裂をしない状態で発見される場合(未破裂脳動脈瘤)は、まだ少ないのが現状です(5-10%)。通常の未破裂脳動脈瘤の大きさでは、自覚症状がありません。瘤(こぶ)の発生部位、大きさ、形によって脳や脳神経が圧迫され、症状が出現することがあります(②,④;瞳孔散大、眼瞼下垂、眼球運動障害による複視など)。
最近では脳ドックで発見される方も増えていますが、脳動脈瘤が発見されたら、1)場所 2)大きさ 3)形 4)瘤の数 を確認してください。そして、血縁者にクモ膜下出血や未破裂動脈瘤の既往を持った人がいるかを調べます。そして、診断医から治療の必要性を含めた今後の方針について意見を聞いて下さい。
結局、選択肢としては
――――――――――――――――――――――――――――――
1)経過観察をする(画像検査を定期的に行い動脈瘤の変化をみる)
2)治療をする
――――――――――――――――――――――――――――――
の2つになります。
治療をすることの中にも
●「手術(開頭による手術)」
●「血管内手術(カテーテルを用いた塞栓術)」
の選択肢のがあります。
人生が終わるまで「未破裂」のままでいけるのか?、もしくは破裂するのか? これらの危険性を明確に示すことのできる検査方法は残念ながらありません。
未破裂脳動脈瘤が破裂した場合、「くも膜下出血」をきたします。くも膜下出血が発生すると半数以上の方が死亡するか社会復帰不可能な障害を残すような極めて重篤な状態となります。この出血率(破裂する可能性)はそれぞれの動脈瘤により異なりますが、0.5〜1%/年(未破裂動脈瘤のある200人の中で1年間に破裂する人は1〜2人)と言われています。しかし、平均よりも大きい動脈瘤、不整な形をした動脈瘤、多発している動脈瘤などは破裂率がよりも高いと考えられています。
経過観察をする時のリスクは、経過中の動脈瘤の破裂・瘤の拡大による破裂(くも膜下出血)が挙げられます。また、治療をする際のリスクとしては、治療による合併症の出現と生活動作が制限させるような後遺症が出現する可能性が挙げられます。
【破裂の危険因子】
・ 瘤の大きさ(破裂も最も関係あり)
・ 年齢(若年者)
・ 動脈瘤の場所(*)・形(壁不整、ブレブ)
・ 性別(女性)
・ 高血圧、脳梗塞の既往
・ 多発性
・ 定期的な画像検査で、大きさや形の変化を認めもの
(*) 前交通動脈瘤、椎骨/脳底動脈、中大脳動脈瘤
国際未破裂脳動脈瘤研究 (ISUIA, 2003)
● 7mm以下の未破裂脳動脈瘤(②’、④は除く)
・ほとんどが破裂しない
・くも膜下出血の既往がない
● ④は、年間0.5%の破裂率(年間200人に1人)
● 動脈瘤7㎜以上では、
年間の出血率
7-12mm ①-③: 0.5%、
④ : 2.9%、
13-24mm ①-③: 2.9%、
④ : 3.7%
25mm以上 ①-③: 8%
④ :10%
------------------------------------------------------------------
① 中大脳動脈瘤/ ② 内頚動脈瘤 ②’ 内頚動脈-後交通動脈瘤/
③ 前交通動脈瘤 ③' 前大脳動脈瘤 /④ 椎骨・脳底動脈瘤
日本での報告(日本破裂脳動脈瘤悉皆(しっかい)調査、UCAS)
● 日本において未破裂脳動脈瘤の破裂率は年間0.95%
● 小さな動脈瘤でも破裂する。大きな動脈瘤ほど危険性が高い
● ③’、②’の動脈瘤 : ①の動脈瘤より破裂率が約2倍高い。
: 小さなものも含め破裂率は年0.5%以上あった。
● 不正な動脈瘤からの突出(ブレブ/娘動脈瘤)のある動脈瘤は、ないも
のに比較して約1.6倍の破裂率であった。
-----------------------------------------------------------------
① 中大脳動脈瘤/ ② 内頚動脈瘤 ②’ 内頚動脈-後交通動脈瘤/
③ 前交通動脈瘤 ③' 前大脳動脈瘤 /④ 椎骨・脳底動脈瘤
患者さんへの説明は、診察医(外来説明医)の考え方と専門性(手術の専門、血管内手術の専門)によって違います。年齢・既往歴・瘤(こぶ)の場所/形/大きさ等を考慮して方針を決定することになります。よく、外来で話を聞く事が大切です。