三叉神経痛

(さんさしんけいつう)


1).  三叉神経痛とは?


三叉神経とは、「痛み」などの顔の感覚を脳へ直接伝達する神経です(左右に1本ずつあります)。顔の表面に分布して広く走行している細い三叉神経が少しずつ集まるように太くなり、3本の神経の束(赤矢印)になります(眼の上、頬の上、顎の下)。その後に3本の神経の束は、顔面の下にあるそれぞれの頭蓋骨のトンネルを走行し、頭蓋骨の中を通り抜けて脳の手前で1本の神経(青矢印)となります。そして、顔面の感覚情報が1本の神経より脳へ入ります。この脳へ入る手前の部位に問題が生じると(血管による圧迫: 緑矢印)、顔面に「痛み」として脳が認知する事になります。この「痛み」は、虫歯や額関節症、眼の疾患(緑内障)や片頭痛と間違われる様な顔の「痛み」です。歯や顔面、口腔内粘膜には問題がなくとも、こられの部位の痛みとして認識されます。脳に入る直前の三叉神経のトラブルとは認識されません。


2).  三叉神経痛の主な原因


三叉神経が脳へ入る手前の部位での問題とは、多くは血管による三叉神経への圧迫であり、これが三叉神経痛の原因となります(約90%)。顔の感覚情報を脳へ伝達する三叉神経が、脳へ入る部位(脳幹部)への刺激(血管の圧迫・接触、拍動)が、脳へ伝達され、顔の痛みとして認知・認識されます。

腫瘍(類上皮腫や神経鞘腫、髄膜種など)による神経への圧迫が三叉神経痛の原因になることもあります(約8%)。稀に脳動静脈奇形(AVM)という血管の奇形が原因の事もあります(約0.5%)。


3).  三叉神経痛の主な症状


三叉神経痛には特徴があります。「痛み」は、突発的な強い「痛み」です。雷のような空から地面へ走りぬけるような一瞬で数秒の電撃様の痛みが、顔の一部から広がる様に認められる事が多く、長くてもせいぜい数十秒位の短い痛みです。数分~10分と長く続くような痛みなどは「三叉神経痛」ではないことが多いです。

 

三叉神経痛の痛みは誘発され出現します。食事(噛む)・会話・洗顔・化粧・ひげそり・歯磨きなどで顔に痛みが出現します。また、冷水を飲むと痛みが走ることもあります。また、触れると痛みが誘発されるポイントがあります。額、鼻の横、顎や歯に触れた後に、ビッと痛みが走るという場合は三叉神経痛の可能性が高いです。季節によって痛みが変動することも特徴です。


4).  三叉神経痛の診断


 

三叉神経痛の診断は、痛みの性状や経過、画像検査 (頭部MRI検査)により行います。「痛み」の性状が典型的でない場合や、症状の経過がはっきりしない場合には、診断が難しくなることもあります。非常に細い血管の圧迫が原因の場合は、画像検査 (頭部MRI検査、頭部MRA検査)でもわからない事はあります。よって、症状と画像診断を合わせ、治療 (手術)経験の多い医師による専門的な診断が必要になります。

【 血管による圧迫 (左:細い血管、右:太い血管) 】

 腫瘍による圧迫 

腫瘍による三叉神経痛の場合は、腫瘍摘出による神経への圧迫解除を行います。よって、腫瘍摘出を行えば三叉神経痛は消失します。このページでは、血管による圧迫原因の三叉神経痛について説明しています。


5).  三叉神経痛とは異なる痛みを伴う疾患


三叉神経痛(特発性三叉神経痛)と区別しなくてはいけない病気に、

帯状疱疹(ヘルペスウイルス)の後遺症があります。帯状疱疹は皮膚に痛みを伴う発疹ができる病気です。帯状疱疹が顔面に発症した治療終了後の経過で、三叉神経痛を認める事があります。


また、帯状疱疹の初期(発疹が出現する前の時期)にも、同様に三叉神経痛を認める事があります。帯状疱疹後の三叉神経痛以外は、良く話を聞くと痛みの性質が三叉神経痛とは違っています。


また、舌咽神経痛は三叉神経痛と同様の痛みがのどの奥に起こります。特に物を飲み込んだときに痛みます。耳の奥、首の前方(のど付近)に痛みが走るように感じます。三叉神経痛に比べ、まれですが、三叉神経痛と区別する必要があります

6).  三叉神経痛の治療


1)最も効果的な治療は外科手術による、微小血管減圧術Microvascular transposition: MVT (またはMicrovascular decompression: MVD)という方法です。手術により三叉神経を圧迫している血管を神経から離し、移動・固定する事により、神経の圧迫を解除して痛みの原因を取り除くという手術方法です。手術治療は原因を取り除く根本的な治療(永久的な治療)になるので、最も効果的な治療です。

神経根部を圧迫している動脈を確認します。

神経根部を圧迫している動脈を移動します。

神経根部を圧迫しいた動脈を完全に神経根部より移動させて固定します。


 

三叉神経(紫円)は、脳の比較的深い場所に位置しているために脳を牽引しながらこの部位を確認します。

脳と頭蓋骨内側には、これらを結ぶように(橋のように)走行している脳から心臓へ戻る静脈(錐体静脈:青矢印)という血管があります。一般的には、静脈は切っても(血行を遮断しても)問題が生じる事は稀ですが、この場所での静脈損傷は、脳腫脹による小脳出血を引き起こす可能性があるため、基本的には切らない方が良いと考えられています。脳や三叉神経周辺の構造物に過度の負担や損傷による機能障害を避けながら、三叉神経がこのような静脈に邪魔されないで確認・手術操作ができるように、脳を牽引する方向や程度が大切になります。経験や技術的十分ではない等を含めてリスクを軽減させる方針としての頭皮切開・開頭を大きくする事は大切ですが、患者さんへの負担(侵襲)も大きくなってしまいます。

脳や三叉神経周辺の構造物に過度の負担や損傷による機能障害を避けながら、三叉神経がこのような静脈に邪魔されないで確認できるように、脳を牽引する方向や程度が大切になります。経験や技術的十分ではない等を含めてリスクを軽減させる方針としての頭皮切開・開頭を大きくする事は大切ですが、患者さんへの負担(侵襲)も大きくなります。

また、三叉神経周囲には脳幹という大切な場所を栄養している細い血管(黄色矢印)がたくさんあります。この血管への扱いが十分ではないと圧迫血管を移動させる際に損傷やねじれなどによる血行障害が生じる可能性(術中に脳梗塞や脳出血が起きる可能性)があります。人の顔がそれぞれ違うように、頭蓋骨の形や神経が圧迫されている状態(圧迫している血管の太さや数、神経周囲の構造物との関係)が異なります。

よって、この部位の手術は、臨機応変に対応できる経験や熟練した技術が大切になります。皮膚切開、開頭、脳や神経への負担を必要最小限(低侵襲で患者さんの負担が少ない)というコンセプトにて鍵穴手術という手術法を行っています。

手術は、術者の眼を用いた症状原因の診断と外科治療に対する判断が安全な手術を行うには不可欠です。特に三叉神経だけではなく周囲の構造物(他の脳神経や小血管)に対するへの注意と繊細な手術操作が求められます。私自身は、微小血管減圧術の手術(病院施設の症例数ではなく、個人執刀症例数)は、300例以上を経験しており、良好な結果を得ています。大学病院の中には、年間の施設症例数が0〜10例位の施設もありますので、脳外科医個人としての経験数は、かなりの数になります(後日に詳細を追加します)。熟練した世界的脳外科医である福島孝徳先生より解剖も含め臨床の場で最初にご教授頂いた手術法です。手術は、技術だけではなくお教え頂く師匠の知識や経験を取り入れながら、自分の知識や経験、知恵とする事が手術を主とする脳外科医には、とても重要だと実感した手術の一つです。

2)内薬による治療方法もあります。カルバマゼピン(商品名;テグレトール®/Tegretol)という主にてんかんの治療薬での内服で効果があります。痛みが完全に消失できなくでも緩和させる事が可能です(痛みが軽度~中等度の場合)。また、プレガバリン(商品名;リリカ/Lyrica)という神経が原因となる痛みに対して効果をもたらす治療薬もあります。帯状疱疹などの神経障害性疼痛に用いられましたが、三叉神経痛においても使用認可されました。薬の副作用(肝機能障害・めまい・ふらつき、重症になると全身の臓器の機能が悪くなるStevens-Johnson 症候群があります)、痛みの増悪に伴う薬の増量に限界が生じた場合は、内服治療の継続はできません


7).  三叉神経痛の手術法(福島式 鍵穴手術)

                          ☛ 鍵穴手術とは?


 

 

皮膚の切開は、耳の後ろ(髪の毛のある部位)に約3~4cmの小さな切開のみで行います。無剃毛手術のため(髪の毛は、切らずに剃る事もしません)手術後傷が目立つ事はありません。頭蓋骨に直径2cm程度の穴を空けて、三叉神経が脳へ入り込むまでの走行を頭蓋骨内側と脳の間の隙間から確認します。そして、三叉神経を圧迫している血管を丁寧に剥がし血管が神経に当たらないように場所を移動させて、固定します。手術時間は2時間前後です

この際、血管を丁寧に剥がさずに血管と神経の間に物(クッション)を挟む方法(

(Interposition法)を行う施設や医師がおります。術後の経過で神経周囲が癒着をしてしまい、再発の原因となることがあります。また再手術が必要になった場合には、癒着が強く神経損傷による感覚障害のリスクが増してしまいます。我々の方法は、一貫して神経を圧迫している血管を移動させる重要性を主張しています(圧迫血管を移動させる Transposition法です)。

血管の固定にはテフロンという素材を使い血管を包む細いタオルのような物を作り、血管を巻いてテフロンを他の部分に付ける(フィブリンのりという特殊なのりを使ってのり付けしてきます)という方法を行っております。これは、私の師である福島孝徳先生(DUKE大学)が、この30年の手術経験の元で確立した非常に侵襲の少なく、有効かつ安全な手術方法です。



8).  三叉神経痛の術後経過


ここ数年の手術による痛みは、約99%消失しています(他院での手術後の再発に対する手術症例は含まれておりません)。手術前の画像検査や痛みの経過より、神経根の血管圧迫ないしは捻転等の診断を正確に行う事により手術で治癒する症例への判断するが行いやすくなってきたためです。ほとんどの症例で手術直後から痛みが取れます。まれに 12 週間かかることもあります。予定通りであれば入院は術後 1週間で退院できます。